最高裁判所第一小法廷 昭和25(れ)172 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
被告人A弁護人柏岡清勝の上告趣意について。
しかし、所論の憲法二五条一項の法意は国家は国民一般に対し、概括的に健康で
文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担しこれを国政上の任務とすべきで
あるとの趣旨であつて、此規定により直接に個々の国民は国家に対し、具体的現実
的にかゝる権利を有するものでないことは当裁判所の判例とするところである(昭
和二三年(れ)九三〇号同二四年六月二九日大法廷判決、判例集三巻七号一一三五
頁)従つて、仮りに所論のように主要食糧の欠配により生活して行くことが困難で
あるとしても、公務員たる鉄道職員がその職務に関して荷主から金品を収受したの
を刑法収賄の罪に処断してはならないという理由は所論憲法の規定の解釈からは出
てこないから、原審が被告人Aの判示所為を収賄罪に問擬したからといつて原判決
は所論のように憲法の規定の精神を沒却するものとはいえない。論旨は理由がない。
被告人B弁護人海野普吉、同位田亮次、同齋藤熊雄上告趣意第一点及び弁護人齋
藤熊雄の上告趣意第一点について。
しかし刑法一九八条は「第一九七条乃至第一九七条ノ三ニ規定スル賄賂ヲ供与シ
………」と規定しているのであるから、原審は判示の被告人Bの賄賂の供与が右刑
法の規定のいずれに規定する賄賂を供与したものにあたるかを明らかにする趣旨で
所論刑法の規定を摘示したにすぎないものであつて、所論のように刑法一九七条の
三の規定を適用して量刑処断したものでないことは刑の減軽の規定を適用しないで
被告人を右一九七条の三の最短期である一年未満の懲役(六月の懲役)に処してい
ることからも明らかなところである。されば原判決には所論のように法令を不当に
且つ被告人に不利益に適用した擬律錯誤の違法は存しないから、論旨は理由がない。
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被告人B弁護人海野普吉外二名上告趣意第二点について。
しかし、所論に摘録する原判示の部分は原判決挙示の証拠である相被告人A、原
審相被告人Cの原審公廷における関係部分の供述(記録八五三丁、九〇三丁)、第
一審相被告人D同Eの第一審第二回公廷における関係部分の供述(記録四二四丁、
四三二丁)と対照すれば相被告人A原審相被告人C、第一審相被告人D、同Eが被
告人Bから判示の各賄賂の供与をうけたのは同人等がそれぞれ判示の職に在職中で
のことであつた趣旨を判示しているものと理解することができる。されば原判決に
は所論のような違法は認められない。
同第三点について。
相被告人Cが原審第二回公判廷において所論摘示のごとくBから金千五百円を寄
越したと供述したに過ぎないことは所論のとおりである。
しかし、記録を閲するに、原審第一回公判廷において検事が第一審判決摘示の事
実(同判決の第二の(1)の(リ)が原判決の第四の一のトにあたりいずれも金額
は三千円となつている)を公訴事実として陳述し裁判長が被告人等に対して被告事
件を告げたのに対して被告人Cは「現金の交付を受けたことは事実ですがその金の
趣旨は違つている」と述べていることが明らかである。そして、原判決の証拠説明
には同被告人の原審公廷における授受金品の趣旨の点を除いて同被告人の関係部分
につき判示同旨の供述と示しているのであるから、原審は金額の点については同被
告人の原審第一回公判廷における供述を証拠として採用したものであることを認め
ることができる。されば原審がその第一回公廷における同被告人の供述を証拠とし
て採用し、所論に摘録する供述を採用しなかつたからといつて原判決には所論のよ
うに虚無の証拠を断罪の資料に供したという違法は存しない。論旨は理由がない。
同第四点について。
所論の第一審第二回公判調書竝にこれに引用されている第一審相被告人D、同E
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に対する検事の聴取書中の同人等の各供述記載によれば同人等はその身分に関し判
示同趣旨の供述をしたことが明らかである。されば原判決が所論の判示事実を右被
告人等の第一審第二回公判調書中における同人等関係部分につき判示に照応する各
供述記載を証拠として認定したからといつて原判決には所論のような理由不備の違
法は存しない。
同第五点について。
本件は新刑訴施行前に公訴の請求があつた事件ではあるが刑訴施行法一三条に基
ずく刑訴規則施行規則三条三号が適用される筋合であつて、同条号によれば、裁判
所は開廷後引続き一五日以上開廷しなかつた場合においても必ずしも公判手続を更
新する必要なく、裁判所がその必要ありと認めた場合に限り手続の更新をなせば足
るわけであるから、原審が開廷した第五回公廷と第六回公廷との間に一五日以上の
経過があつたにも拘らず原審が公判手続更新の必要を認めないでこれが更新をしな
かつたからといつて違法であるといえないことは当裁判所の判例の趣旨とするとこ
ろである(昭和二四年(れ)二〇〇〇号同二五年二月一五日、大法廷判決)。なお
刑訴規則施行規則三条三号が違憲のものでないことは昭和二四年(れ)第二一二七
号同二五年一〇月二五日大法廷判決の示すとおりである。されば論旨は理由がない。
被告人B弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
しかし、原判決は「被告人Bは原審相被告人Eから……ことに対し、その謝礼と
して………貸借名義で現金三千円を交付し」と判示しているのであつて、この判示
事実中貸借名義でその実謝礼として交付した点の認定は原判決挙示の証拠中第一審
第三回公判調書中における被告人Bの「被告人としてはお礼の意味でやつたので返
して貰う心算はなく又Eも本当の意味で貸してくれというのではなく実は呉れとい
うのだと思つたがEはその時借用証は今持つていないが良いかと云つた旨」の供述
記載によつてこれを肯認することができるから、原判決には所論のように虚無の証
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拠によつて断罪したという違法は存しない。所論は原判決挙示の証拠たる第一審第
二回公判調書中の第一審相被告人Eの供述記載中原判決の引用しない部分を根拠と
して独自の見解に立つて事実審たる原裁判所の事実認定を非難するに帰し上告適法
の理由とならぬ。
同第二点について。
しかし、所論に摘録する第一審第二回公判調書中の第一審相被告人Eの供述記載
が証拠能力を具備するものであることは勿論その内容においても同人が判示金額の
現金を判示の日時に判示の場所において被告人Bより交付を受けた事実を認定する
に足る証拠価値あるものであることもまた、いうまでもないところである。されば、
右供述記載中判示に照応する部分と被告人Bの原審公廷における供述及び第一審第
三回公判調書中の供述記載とを証拠として所論の判示事実を認定した原判決をとら
えて被告人Bの自白を唯一の証拠として同人を処断したものだとはいうことをえな
いから所論はその前提を欠きとるをえない。
同第三点について。
しかし、論旨の理由ないことは被告人B弁護人海野普吉外二名の上告趣意第三点
について説明したとおりである。
同第四点について。
しかし、原判決挙示の各証拠(特に被告人Bの原審公廷における「同一一月上旬
頃Aに現金六千円を貨物係事務室で渡したる旨」の供述)に照して判示金額の認定
はこれを肯認することができるから、原判決には所論のような虚無の証拠によつて
事実を確定した違法は存しない。所論は結局独自の見解に立つて原判決の事実認定
を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。
同第五、六点について。
論旨はいずれも判示被告人Bの原審相被告人Cに金銭を交付した各所為は社交上
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行われる官庁又は個人に対する寄附の性質を有するにすぎないものであつて賄賂で
はないというのであるが原判決の所論各判示事実の認定はその挙示するそれぞれの
証拠に照してこれを肯認することができる。そして仮りに所論のように収賄者Cが
その収受した金銭を所論の各用途に費消したとしてもその事の為に各判示事実の認
定を違法とするものではない。所論は独自の見解に立つて被告人に有利な証拠の部
分のみを引用して事実審たる原裁判所の事実認定を非難するに帰するものであつて
上告適法の理由とならない。
同第七点について。
論旨は原判決が判示第四の(1)の(二)の所為に刑法一九八条の他に同一九七
条の三の二項を適用したのは擬律錯誤であるというのであるが原判決が所論の所為
は刑法一九八条、一九七条の三の二項に該当しと説明して贈賄者処罰の規定の他に
特に収賄者処罰の規定である同一九七条の三の二項を示したのは被告人Bが原審相
被告人Cに対し所論判示の金銭交付の行為が収賄者処罰の刑法のいずれの規定の賄
賂の供与にあたるかを明らかにする趣旨にいでたものにすぎないのであつて贈賄者
たる被告人Bの所為に所論刑法一九七条の三の二項所定の刑を適用する趣旨でない
ことは弁護人海野普吉外二名の上告趣意第一点について説明した通りであるから、
仮りに所論のように被告人Bにおいて原審相被告人Cが釧路管理局の承認を得べき
にかゝわらずこれを経ないで冷凍車を被告人Bのために配車した事実を知らなかつ
たとしても原判決の法律適用の説明を違法ということはできない。論旨は理由がな
い。
被告人B弁護人斎藤熊雄の上告趣意第二点について。
しかし、原判決は所論第四の(1)の各所為を連続犯として認定しているのであ
つて、この事実認定は原判決挙示の証拠によつてこれを肯認することができる。さ
ればこれ等の所為を包括一罪ということはできないから、原判決が犯意継続にかゝ
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るものとしてこれらの犯行を昭和二二年法律一二四号附則四項改正前の刑法五五条
を適用して連続犯として処断したからといつて所論のように法令の適用を誤つたり
理由不備の違法のものとはいえない。論旨に引用の判例は本件に適切なものではな
い。しかのみならず仮りに包括一罪として処断すべき案件であるにかゝわらず連続
犯として処断したとしても判決の結果に影響を来すものではないことはいうまでも
ないところである。所論は結局判示にそわない事実を主張して原判決の法律適用を
非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。
よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は弁護人海野普吉外二名の上告趣意第五点に対する沢田裁判官の反対意
見(昭和二四年(れ)二〇〇〇号、同年(れ)二一二七号各大法廷判決における同
裁判官の少数意見参照)を除くの外裁判官全員一致の意見による。
検察官長谷川瀏関与
昭和二五年一一月九日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 澤 田 竹 治 郎
裁判官 齋 藤 悠 輔
裁判官 真野毅は出張中であるから署名押印がで
きない。
裁判長裁判官 澤 田 竹 治 郎
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